このところ輝津薙が嬉しそうに笑っているのを天照と月読は不思議そうに見ていた。 「輝津薙、何があった?」 「えっなにが?」 「・・・・・最近嬉しそうにしているではないか」 「ふふふ、なんでもないの」 天照と月読は顔を見合わせた。 輝津薙には神の禁忌を教えてはいない。何も無ければよいのだが、と案ずる兄を尻目に輝津薙は姿を消した。 その気になれば、二人とも輝津薙のあとを追うこともできるのだが、彼女の好きにさせてやりたかった。 「なにもなければよいが・・・・・」 「・・・・」 「氷珱」 「・・・・・・・また来たのか」 「またとは失礼な。約束したでしょう?また会いましょうって」 輝津薙はニコッと笑った。 氷珱は溜息をつく。 「で、今日は何をしに来たんだ?」 「あなたのそばにいたいわ、氷珱」 「・・・・・っ」 氷珱は座っていた樹の枝から滑り落ちた。 輝津薙は慌てて彼のもとに駆け寄る。 「大丈夫?!」 「お前なぁ・・・・禁忌について知っているのか?」 「禁忌?なぁに、それ」 氷珱はやっぱりそうか、と呟いた。 この妹馬鹿な兄貴どもが、と内心で毒づく。 「神と妖怪は馴れ合ったらいけないんだ。さらにそのあいだに子供でもできてみろ。かなり禁忌を破ることになるぞ」 「そうなの?」 「あぁ。第一、お前はなんでそこまで俺に執着する?」 輝津薙の顔から一瞬表情が抜け落ちた。 が、すぐに微笑んだ。 「私と・・・・・同じだから」 「月読か・・・・なんのようだ?」 「高於、彼は・・・・」 神気を完全に消し、高於と月読は眼下の輝津薙と氷珱の姿を見ていた。 月読は軽く厳しい顔をして二人を見ている。 「妖狐だ」 「妖狐・・・・・?だが双黒ではない」 「異端だ。輝津薙と同じように・・・・・」 「高於、輝津薙は違う。あれは私達と同じくイザナギから生まれた」 高於は月読をみた。 「それは知っている。だが・・・・・・考えても見ろ。女神の中の何人が子をなすことができる?」 「・・・・・・・」 「今のところ輝津薙一人だけだ」 そう、それが意味するのは・・・・ 「どんな妖怪であろうとも、神の、そう・・・・あのイザナギ神の血を引く娘を妻とし、子をなすことができるということだ」 狙われやすくなる。 本当は婚姻の話は天照、月読で捨ててきた。 彼女は子をなすべきではないのだ。 あまりに強い力を持っているから、彼女は天津神の神殿にいるべきなのだ。 たとえそれが、"牢獄"と言われようとも・・・・ 「それでも私はあれを止めることはできない・・・・」 星が・・・と月読は言った。 月読の視線と同じほうを高於は見た。 「定まった・・・・・・」