それは幾千年も前のとき 輝津薙命(かぐつちのみこと)と一人の妖狐の物語 その神は紅の髪を持っていた。天神天照大御神と月読命の妹で、多くの神をその虜にしていた。 名を輝津薙命という。神を生み出す力と炎を操る力を持っていた。 その青年、妖狐の中でも最も異端の存在だった。 風を操る青年の瞳は青。そして髪色は銀。 双黒と呼ばれるのが妖狐の特徴。しかし、彼は仲間達とは違っていた。 そんな二人が出会ってしまったのは偶然か必然か。 どちらであっても、その先の運命を狂わせたことに相違ない。 「輝津薙、どこにいる?」 「ここよ、月読兄上」 「輝津薙・・・・兄上が探しておられた」 「天照兄上が?また婚姻の話だわ」 輝津薙は半ば呆れたように言った。彼女の兄である月読は軽く苦笑する。 「仕方ないだろう?女神の中で新たに神を生み出す力を持っているのはお前だけなのだから」 「私は兄上の子を生みたいわ」 「またそんな戯れを・・・・・ほら、兄上が待っている」 「はぁい」 輝津薙は翔けるように天照の部屋へと向かって行った。 「天照兄上、お呼び?」 「おいで、輝津薙」 寝台に腰掛ける優美な青年は輝津薙が入ってくるのを見ると手招きした。 輝津薙は青年のもとへとむかう。 「兄上、また婚姻のお話?それなら即行で断りますけど」 天照は苦笑した。妹の輝津薙は頑固一徹、何を言っても聞かないたちなのだ。 「その話はもうとりやめた。お前に無理強いしても仕方ないしな」 「まあ本当に?」 「嘘を言ってどうする」 「兄上はしょっちゅう嘘を言って私をからかってない?」 ぷくっと頬を膨らませた輝津薙を天照は苦笑して抱き締めた。 天照の腕の中に落ちた輝津薙は頬を染める。 「私たちのそばに永遠にいるつもりか、輝津薙?」 「えぇ・・・・私が好きなのは、兄上だけだから」 天照は輝津薙の顎に手をかけ、優しく口付けた。 「愛している、輝津薙」 「私も、天照兄上。月読兄上も、隠れていないで入ってきたら?」 「そうだな」 天照と輝津薙が笑いながら言うと仏頂面をした月読が入ってきた。 「月読兄上、そんな顔しちゃだめ」 「誰のせいだと思っているんだ、輝津薙?」 「私?」 「わかっているだろう・・・・」 月読は半ば嘆息した。天照は面白げに二人の会話を聞いている。 「それで、結局はどうした?」 「ずっとここにいるよ」 「・・・・・・・そうか」 月読はどこかほっとしたような笑みを浮かべた。 輝津薙は月読のほうへ腕を伸ばす。月読はそっと彼女の体を受け止めた。 「月読兄上も天照兄上も大好き・・・・ずっとずっとそばにいるわ・・・・」 「あぁ」 しかし輝津薙が紡いだその言葉が守られることはなかった。